昔見た映画にこんなシーンがありました。
「ぐれてやる!」と若者が叫び、それに対して老人が「ボケてやる!」といい返すというシーンです。強烈なやりとりですが、この2つの言葉が何となく釣り合うと感じてしまうのは、どちらも「すごく厄介なこと」だからでしょう。

　昭和50年頃の話をしたいと思います。
今のように認知症予防や介護施設などほとんどなかった時代です。
この頃、私の祖父は認知症になり、同居家族の叔父、叔母が祖父の世話をしていました。お風呂などは叔母だけでは手に負えず、叔父が仕事を終えて帰宅後に、2人がかりで入浴させていたと聞いています。
祖父の鼻血が布団の下まで染みたこともあったと聞きました。

　この頃はまだ、親の面倒は嫁が見るのが当たり前という時代でした。もう手に負えなくて、限界になってからやっと施設を探しましたが、その施設も、扉を開けただけで強いアンモニア臭に圧倒されるような、人生の最後にはかわいそうなところでした。当時の施設は病人が入る「病院」がほとんどで、いわゆる「介護施設」は極わずかだったのです。そういったところに入所した祖父もかわいそうですが、何よりも苦労したその叔父、叔母が、祖父母より年若くして亡くなったことがとても残念です。

　それから時は経ち、私は音楽療法実習の現場として介護施設のグループホーム(認知症などの人が入居している施設。ここには10人くらいずつ1、2階に居住していました)を訪れました。施設は昔より進化してきれいになっていますが、60歳代のまだ若い入居者の多さに驚きました。60歳代といえば、うちのシニアピアノ教室に通われている一番若い年代です。
　施設には、定年を目前にしてアルツハイマー型認知症のために入所された男性もおられ、ご本人はもちろんご家族も本当に気の毒でした。

　本書は、シニア層に向けて、いつまでも健康な脳を持ってもらうための「脳トレ」の書籍です。
　そう聞いても、「今は忙しいから趣味はリタイア後に見つけるよ」「脳トレはパズルやゲームで充分でしょ」と思われている人は多いと思います。
　しかし、「仕事が趣味です」と不規則な生活を続け、いざリタイアしたら、これまでのライフスタイルとの違いに戸惑ってしまい、ウツ病から認知症になってしまうというのはよくあるパターンです。頑張って働いてきて、やっと自分の時間が見つかった途端にこんな残念な事態になってしまうのは避けたいですよね。

　人生100年時代といわれるほどに長寿になった現代は、何も考えずに一生を終えられる時代ではなくなりました。知恵を持って生き抜かないといけない、一つ進化すべき時代だといえるでしょう。

「強い者が生き残るのではない。賢い者が生き延びるのでもない。変化できる者だけが生き残るのだ」は、「進化論」で有名なダーウィンの言葉です。

　どうぞご一緒に、今一度「かけがいのない大切な日常」を見直して参りましょう。ご提案もあります。50歳は人生100年時代の折り返し地点。チャンスです!

村山直美